東京高等裁判所 昭和34年(行ナ)49号 判決
成立に争いのない乙第一二号証(実用新案説明書)についてみるのに、その図面および説明書の全文、殊に登録請求の範囲ならびに作用および効果に関する記載によれば、本件においてその権利範囲を確認すべき登録第三五六、二九〇号実用新案の考案要旨は、「電気アイロンにおいて、電気承口より分岐回路を作りアイロン柄前端に導き、そこに豆電球を装置し、アイロン使用中前面を照明せしめると同時に、アイロン柄前端上部の窓硝子に漏光せしめて、アイロンに電圧が加えられているか、ないしは電流の通じていることを表示せしめる構造」にあるものと認められる。
一方、成立に争いのない乙第一号証の二ないし五((イ)号図面およびその説明書別紙参照)によれば、本件権利範囲確認の対象物である(イ)号電気アイロンの構造は、別紙図面に示すように、電源コードの一端は電熱線の一端子へおよび抵抗を通つて微光放電灯(いわゆるグロー放電灯)の一端子に接続せられ、コードの他端は、バイメタルより成るサーモスタツトの開閉接点を通つて電熱線の他端子および微光放電灯の他端子に接続せられ、微光放電灯は把手の前方傾斜部に装着せられ、その前面に環状の金製帽をかぶせ、斜上方に光を放つようにしたものであることが認められる。
そこで、本件登録実用新案の考案要旨と(イ)号電気アイロンの構造を比較してみるのに、両者は、アイロンの柄の前端上部に表示灯を装置し、発熱体に電流の通じていることを表示せしめるようにした構造を有する点において共通することが認められるけれども、(イ)号電気アイロンにおける表示灯は、微光放電灯であり、しかも斜上方に光を放つようになつており、且つバイメタルより成るサーモスタツトによつて点滅するのであるから、本件登録実用新案の電気アイロンにおける豆電球のように、アイロンの使用に際しその前面を照明する作用効果はこれを有し得ないものと認められるのである。
原告は、本件登録実用新案の電気アイロンにおける表示灯附アイロンの要素は考案要旨の必須要件をなすものであり、(イ)号電気アイロンが表示灯附アイロンの要素を具備する以上、それは本件登録実用新案の権利範囲に属する旨主張する。
しかしながら、前記乙第一二号証の説明書によつて認められる次の事実すなわち、本件登録実用新案はその名称を「照明表示灯附電気アイロン」とし、実用新案の性質・作用および効果の要領の項において、右実用新案の目的の一は、アイロンに電流を通ずると同時にアイロン柄前端の豆電球を点灯せしめ、アイロン前面および作業場を照明せしめ、これによつてアイロンの夜間使用を便利ならしめるにあり、目的の二は、漏光用窓およびその直上の硝子または類似物を嵌入した窓を通じてアイロン使用中豆電球から漏光せしめることにより、昼夜間を問わず右窓の硝子等を光輝あらしめ、もつてアイロン中に電流の通じていることを表示せしめ火災等の危険を防止せんとするにある旨記載し、登録請求の範囲の項に前記認定の考案要旨と同趣旨の記載のあることからみて、本件登録実用新案においては、一個の豆電球が照明灯になると同時に表示灯にもなるように豆電球や窓硝子を装置した構造を有することすなわち、原告のいう照明灯附アイロンの要素と表示灯附アイロンの要素とを併せて具備することが考案要旨の必須要件をなすものと認めるのが相当である。
原告主張のように、本件登録実用新案の電気アイロンを昼間明るい部屋で使用する際には、豆電球の光が照明灯としての作用効果を発揮せず、その前面を遮蔽することにより表示灯としての作用効果のみを発揮せしめることが可能であり、且つそれが容易になし得ることであるとしても、前記認定のような説明書の記載等に徴すれば、前記豆電球が夜間使用時に照明灯としての作用効果を発揮できるような構造となつている点もまた本件登録実用新案における考案要旨の必須要件を構成していることは否定できず、これを右実用新案に係る電気アイロンの構造における附加的な部分にすぎないものとはとうてい解し得ないところである。
そして、(イ)号電気アイロンにおいて微光放電灯が照明灯としての作用効果を発揮し得べき構造になつていないこと前認定のとおりである以上、(イ)号電気アイロンは本件登録実用新案における考案要旨の必須要件を具備するものとはいえず、したがつてその権利範囲に属しないものと認める外はない。表示灯附アイロンの要素が本件登録実用新案における考案要旨の必須要件を構成するものである以上、その要素を具備する電気アイロンは本件登録実用新案における考案要旨の必須要件を構成するものである以上、その要素を具備する電気アイロンは本件登録実用新案の権利範囲に属するとの原告の主張は、照明灯附アイロンの要素が考案要旨の必須要件を構成せず単なる附加的な構造部分にすぎないとする見解によるものであるか、あるいは照明灯附アイロンの要素も考案要旨の一つの必須要件に該当するが、いやしくも必須要件中の一つを具備する以上当該実用新案の権利範囲に属するものと認定すべきであるとの見解を前提とするものであるか、明確を欠くうらみなしとしないが、前者の見解の採用しがたいことは前記説示のとおりであり、後者の見解は、権利範囲を不当に拡張するものであつて、これまた是認し得ないところといわねばならない。
以上の次第で、(イ)号電気アイロンが本件登録実用新案の権利範囲に属しないものと判断した本件審決にはなんら違法の点はない。
〔編註〕 本件に関する図面および説明書は左のとおりである。
(イ)号図面の説明書
(イ)号図面は審判請求人松下電器産業株式会社の製造販売に係る電気アイロンを示すもので第一図はその平面図、第二図は同側断面図第三図はその結線図である。
図に於て(a)は把手、(b)は微光放電灯(所謂グロー放電灯)、(c)はその前面に被冠せる環状の金属製帽、(d)は電熱線(e)はバイメタルより成るサーモスタツト(f)は接点(g)はコードを示し微光放電灯(b)は把手(a)の前方傾斜部に装着せられ、電源コード(g)の一端は電熱線の一端子へ及び抵抗を通つて微光放電灯の一端子に接続せられコードの他端は、サーモスタツトの開閉接点(f)を通つて電熱線の他端子及微光放電灯の他端子に接続せられる。
(イ)号図面
第1図
<省略>
(イ)号図面
第2図
<省略>
(イ)号図面
第3図
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